【2020年版】BCP策定の現状。意識の高まりはあるも政府目標にははるかに届かず

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企業は、予想外の事態で事業の継続が困難になることが多々あります。自然災害をはじめ、感染症、情報セキュリティの事故など、想定しておくべきリスクは多々あります。常日頃からリスクに備えておくことは、万一の際に事業継続を可能とするだけでなく、企業価値そのものを向上させることさえあります。

ところがBCPの策定率はここ数年、それほど伸びていません。

この記事では、2020年6月12日閣議決定された防災白書など、最新の情報をもとにBCPの策定がどれだけ進んでいるか解説します。

2020年版「防災白書」によるBCP策定の現状は?

現在、日本政府は2020年までに「大企業でほぼ100%、中堅企業で50%」というBCP策定率の目標を掲げています*。

*参照:国土強靭化年次計画2019 – 内閣官房

政府は、企業におけるBCP策定の実態を把握するために継続的に調査しており、「令和2年版防災白書」で公表しています。内容を抜粋してご紹介します。

大企業68.4%、中堅企業は34.4%へと増加

防災白書によると、BCPを策定した大企業は68.4%(前回64.0%)、中堅企業(資本金10億円未満かつ常用雇用者数50人超)等は34.4%(前回31.8%)で、ともに前回の調査よりも増加しています*。

政府目標である「大企業でほぼ100%、中堅企業で50%」には、ほど遠い現状であることもわかります。一方で、現在策定中の企業を含めた場合は、大企業で約83%、中堅企業で約53%がBCPに取り組んでいる状況が見えてきます。

出典:令和2年版防災白書(第1部第1章) – 内閣府

BCP策定の理由は「リスクマネジメント」がトップ

「BCPを策定した最大のきっかけ」という質問では、大企業、中堅企業とも、「リスクマネジメントの一環として」(大企業34.4%、中堅企業27.8%)が最多の回答となっています*。大企業では、その他にも「過去の災害、事故の経験」(18.0%)や「企業の社会的責任の観点から」(14.9%)がBCP策定理由の上位になっています。

それに対して中堅企業では、「親会社・グループ会社の要請」(20.1%)がBCP策定理由の2番目に位置しており、中堅企業のBCP策定に対する受動的な姿勢が伺える結果となっています。

6割以上がBCPの有効性を実感している

他にもこの調査では、東日本大震災以降に被災経験を持つBCP策定済みの大企業と中堅企業に対し、「被災時にBCPが役に立ったかどうか」という質問をしています。

「とても役に立った」、及び「少しは役に立ったと思う」と回答した大企業は全体の62.8%、中堅企業でも66.7%と半数を超えており、BCP策定済みの多くの企業でBCPの有効性が認識されている結果になっています。

2020年帝国データバンク調査によるBCP策定の現状は?

一方、日本国内最大手の信用調査会社である帝国データバンクも、全国の企業を対象としてBCP策定に対する独自の調査を実施し、結果を公表しています(参照:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年))。

企業全体の16.6%、低位にとどまるも増加傾向

帝国データバンクの調査では、BCPを策定している企業は全体の16.6%。2割にも満たない状況ですが、前回調査と比較すると1.6 ポイントの増加となっています*。また同調査報告書では、「現在、策定中」(9.7%)や「策定を検討している」(26.6%)との回答の増加や、BCP策定の意向がある企業が全体の52.9%に達していることから、BCPに対する意識は高まりつつあると指摘しています。

事業継続計画(BCP)の策定状況
出典:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)- 帝国データバンク

また、規模別に見たBCP策定企業は、大企業で30.8%、中小企業だと13.6%、小規模企業にいたっては7.9%という結果になっています。防災白書などと同様にBCP策定率は企業規模で顕著に差が出ることがわかります。 

一方、業界別では金融業が42.1%と突出し、続く農林水産業が28.6%。残りの業界では2割を下回る結果となっています。業界でもおおきな差が出ていることが分かります。

想定リスクは「自然災害」に次いで「新型コロナウイルス」が急増

「事業の継続が困難になると想定しているリスク」という質問では、今年の新型コロナウイルスの影響が顕著に出ています。「自然災害」が前年同様最多となる一方、「感染症(インフルエンザ、新型ウイルス、SARSなど)」が昨年から約45ポイントも急増しています。同調査報告書でも新型コロナウイルスが多くの企業に感染症リスクを認識させたと指摘しています。

また、新型コロナウイルス関連で倒産する企業が増える中、事業継続リスクとして「取引先の倒産」を挙げる企業も増えている点も新型コロナウイルスの影響を感じさせられます。

BCP策定のメリットは「従業員の意識向上」がトップ

BCP策定の効果についての質問では「従業員のリスクに対する意識が向上した」(57.4%)、「事業の優先順位が明確になった」(37.7%)、「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」(35.5%)など、様々な効果が表れています。その他、国からの事業継続計画の認定や株主からの信頼の獲得なども具体事例として挙げられています。

BCP策定が進まない課題の解消は残ったまま

BCPを策定していない理由については「策定に必要なスキル・ノウハウがない」ことがトップとなり、全体の半数近く41.9%を占めており、「策定をする人材を確保できない」(28.7%)、「書類作りで終わってしまい、実践的な計画にすることが難しい」(28.6%)、「自社のみ策定しても効果が期待できない」(23.6%)といった回答が見られます。

前年と変わらぬ理由が上位を占めており、BCP策定に向けた課題の解決が全く進んでいない状況がうかがえます。

前述の防災白書ではBCPの策定が進まない理由について言及されていませんが、日本経済新聞(2020年6月12日)によると、「部署間の連携が難しい」「BCPに対する現場の意識が低い」「策定する人手を確保できない」といった内閣府の見解が示されていました。

出典:大企業、BCP策定68% 防災白書政府の目標「年内100%」遠く – 日本経済新聞

政府としてもBCP策定に関する難しさを認識しているため、白書の中でも、「今回の調査結果を参考に、策定率向上のため普及啓発に取り組む」と結んでいます。次年度は教訓を活かし、課題解決の打破に向けた大きな前進が求められます。

これまで以上に高まる、BCP策定の重要性

防災白書や帝国データバンクの調査から、BCPを策定する企業は緩やかながら増加しており、BCP策定への意識や取り組みが引き続き高まりつつあることがわかります。

しかし、大きな前進は見られないこともまた事実で、政府目標に達するにはまだかなりの年月がかかりそうです。なかでも懸念されるのは、BCP策定に必要なスキル・ノウハウ不足が多く指摘されていることで、以前から指摘されてきたにもかかわらず全く解消されていません。

自然災害の中でも2019年は台風や豪雨による被害が各地で発生し、さらに2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症が大きな影響を与えています。BCP策定に対する重要性はこれまで以上に高まっており、これ以上、先送りにはできません。

企業規模にかかわらずまずは一歩踏み出す必要があるのではないでしょうか。

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