中小企業のBCP策定!まず最初に最低限取りかかるべきこととは?

BCP
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 被害を経験し、苦境に立たされてみないとわかりにくいのがBCPの重要性です。日常業務に直接関連しない、いつ起こるのかもわからない将来の不測の事態に対し、時間と労力を割いて計画を立てることの意義を感じられないのは仕方のないことかもしれません。

 特に、さまざまな面においてリソースが限られる中小企業にとって、ガイドラインに示されているBCPのすべての項目を最初から埋めていく作業は、経営者に負担を強いるものです。

 その点に考慮し、中小企業がBCPに取り組むにあたって、投入する労力を最小限に抑えながらも、実際に災害等が起こった際には実効性のある、最初に着手すべきことについてご紹介します。これをきっかけとして、自社にとっての取り組むべきBCPの方向性やその優先順位づけを検討するための足がかりとすることができます。

BCPは決めなければならないことがたくさんある

 BCPは計画を立てることであり、計画に盛り込むべき要素は多岐にわたります。中小企業庁のサイト*で紹介されている、中小企業BCP策定運用指針で示されている計画書を見てみると、運用指針だけでも10章、基本・中級・上級と段階別に示された計画書の様式は20にのぼり、計画を完成させるにはある程度の時間が必要です。

*中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針

最初に着手すべきこと

 国内企業の99.7%を占める中小企業*は、その業容も千差万別であることから、BCPへの取り組みも各社各様であってしかるべきです。国のBCPガイドラインに示される取り組みのうち、着手できるものから進めていくことが現実的といえるでしょう。BCPを作成する上で重要な要素は、ヒト・モノ・カネ・情報という4つの経営資源です。

 次章では、4つの要素それぞれに関して、中小企業のBCPへの取り組みとして重要であり比較的着手しやすいものをいくつかご紹介します。

*中小企業庁「中小企業白書・小規模企業白書2021年版 上

ヒト(例:安否確認の方法を決めておく)

 ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源のなかで、BCPにおいて最も重要な要素はヒトです。災害によって被害を受けるものを想定したときに、最も代替の効かないものがそれまで会社の事業に貢献してきた従業員であり、事業を復旧させ、継続的に事業を行っていく上で欠かせない存在だからです。

 この点から、被災時の安否確認の方法・手段・体制を決めておくことが最優先の検討項目としてあげられます。従業員の安否確認はBCP発動時の初動対応の一部分です。発災現場で二次被害の防止措置を行った後、すぐに行わなければならない項目です。

 安否確認において決めて置かなければならないのは連絡系統と連絡手段です。連絡系統は誰が誰の安否を確認し誰に報告するかということになります。連絡手段は発災時にどの通信手段を使い連絡を取り合うかということです。災害による影響で特定の通信手段が使えなくなることも想定し、複数の通信手段を検討しておくことが重要です。

モノ(例:棚の固定・耐震補強)

 地震を想定する場合、被災予防という観点で最も着手しやすく効果が大きいのが棚等を固定するなど、設備の倒壊を防ぐ措置を講じておくことです。大型の設備の耐震措置、転倒・倒壊防止のための固定を行っておくことは、怪我の防止や場合によっては人命に関わる被害を防ぐことにつながります。

 また、職場によって異なりますが、設備・材料・商品・機材・道具・資料などが密集するなかで、通常業務が行われているケースはよくあることです。地震が起こった場合にそれらが散乱したり、再利用することができなくなったりする光景を災害報道等で目にすることがあります。地震によりある程度の揺れに襲われた場合でも、継続して業務ができるように設備等の耐震補強をしておきましょう。

カネ(例:キャッシュ確保)

 平常時に事業を行っていく上でも手持ち資金を厚くしておくことは望まれることであり、それができれば日頃の苦労はないという経営者の方も多いと思います。被災時に事業が停止すると通常時の売上がなくなるのに対し、平常時と同じ支出に加えて、復旧のための費用が発生します。大きな災害が起こってしまったら倒産するしかないという状況を避けるためにも資金の手当は考えておきたいものです。

中小企業庁による「中小企業BCPガイド」『売上高1ヶ月分程度の資金の確保』*といった財務に関わる項目があげられています。

資金を確保しておくことが難しい場合でも、損害保険、共済などへの加入状況と契約内容を確認することと、政府系の金融機関の緊急時の融資について確認するだけでも、もしもの時に役に立ちます。

また、BCP策定企業向けの耐震化・防災機材購入等のための融資制度もあるので財務面のBCP対策は優先度が高いと考えるべきです。

*中小企業庁「中小企業BCPガイド

情報(例:ペーパレス化)

専門誌「月刊総務」が216名の総務担当者に行ったアンケート調査で「新型コロナでやっておけばよかったBCP対策」*という問い対する回答として「情報の電子化(ペーパレス化)」が2番目に多くあげられています。

このアンケート調査ではパンデミックに対するBCP対策を聞いたものですが、職場にある紙の情報にアクセスできなくなることが業務に支障をきたす企業が多いことを意味しており、これは火災や水害の場合であっても同じことが起こり得ると考えられます。

情報の電子化・ペーパレス化の推進は以前から各所で取りただされることであるにも関わらず、望まれる対策としてあげられるということは、必要性の認識があっても実施することが難しいことを示しています。

業務フローのなかで紙の情報の扱いを検討する場合、DXの視点から業務フロー全体を見直すことが、これからの時代に求められていくことです。

*月間総務オンライン 「新型コロナでやっておけばよかったBCP対策は、テレワーク制度の整備、情報の電子化など

まとめ

 中小企業庁によるBCPのガイドラインは網羅的で、事業継続のための対策として必要な要素の抜け漏れのない完成されたものです。それ故に資料全体のボリュームがあり、着手する際のハードルになっているという側面があります。そのため、入門編から段階を経ながらBCPの全体像に近づいていくという配慮もなされています。

 本来BCPの要素は、被災する可能性の度合いや業種などにより、各企業で大きく異なるものです。教科書通りに進まなくても、ひとつの取り組みを実際に行ってみることで、見えてくるものがあります。

 将来に対する備えも経営者の責任と捉え、ガイドライン等を参考にしながら何かひとつでもBCPにつながる取り組みに着手してみることをおすすめします。

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