新型コロナウイルスの感染拡大によって、様々な企業で主力製品の生産が止まったり、サービス自体の提供が出来ない事態を経験し、事業継続計画(BCP)の見直しをする企業が増えつつあります。しかし、ただ見直すだけでは意味がありません。BCPは「想定外」を少しでも減らさなければなりません。BCPで想定していない事態が発生した場合、せっかく策定したBCPが活用されず、最悪の事態を招く可能性もあるでしょう。
この想定外の要因は何でしょうか。
それは、「BCP策定時に盛り込んでいない変更や変化があること」です。そのため、策定したBCPの定期的な見直しを行い、変更や変化を取り込んでいくことが何より大切になります。
BCP見直しに取り込むべき変更や変化
BCPの見直しの頻度はその会社の特性や規模によって異なりますが、変化が早く大きい近年では、最低でも1年ごとの見直しを行いましょう。見直すべき変更や変化は、外的要因と内的要因に分けることができます*。
外的要因: | 取引先や顧客や法律・ガイドラインや自然環境などの環境変化 |
内的要因: | 中核事業自体や組織や人員や運用やシステムなどの社内変化 |
外的要因
材料を仕入れお客様に届けるまでのサプライチェーンを構成する取引先等に変更があった場合や、サプライチェーン自体、お客様自体が変わった場合が外的要因として挙げられます。事業に関わる法律やガイドラインに変更があった場合も同様です。例えば、令和2年4月1日から『民法の一部を改正する法律』が施行されており、請負契約に関する見直しなどが行われています。
さらに新型コロナウイルスの感染拡大や台風など、近年の事業継続に大きな影響を与えている自然災害も外的要因となります。これらの規模や影響の大きさの想定も、随時見直すべきです。
内的要因
内的要因としては、BCPの対象である中核事業への新たな事業追加や、事業入れ替えが挙げられます。また、その中核事業は変わらず、新商品の投入や運用を行う組織や担当者に変更がある場合も同様です。特に注意すべきなのは、担当者の連絡先の変更です。担当者自体が変わらなくても携帯電話の番号などが変わり、連絡が取れない等での非常時の混乱を避けましょう。
また、中核事業に関連するシステムやネットワークにも注意が必要です。システムやネットワークの切り替えによる見直しは当然ですが、細かい設定変更やIPアドレスの変更時でも見直しを行わないと、BCP全体に支障が出る危険性があります。
適時性
担当者の連絡先やシステムの変更など、変更・変化の内容によっては適時BCPを変更する必要があります。BCPのキーとなる事項について、日々の事業活動の変化全てを担当者が把握することは物理的に不可能です。そのため、変更ごとに更新すべき事項をあらかじめ決めておき、変更や変化が発生する度に申し出る運用方法を社内全体に浸透させるのが理想です。
見直しのポイント
BCPは、その対応手順をスタッフが習得していなければなりません。習得とは、BCPで想定する事態に直面したら、迷いなくやるべきことを実施できる「BCPの対応手順が定着された状況」を指します。この定着のためには定期訓練が必要です。緊急時においてBCPを発動させるのはどんな時か、予習の意味でも従業員全員が理解するために、定期的な勉強会を実施しなければなりません*。
*参照:緊急時にBCPの発動ー中小企業庁
定期訓練での重要な点
定期訓練を行う上で、その目的を決めておくことが重要です。定期訓練は年1回以上実施すべきですが、訓練を行うこと自体が目的にならないよう注意してください。訓練の目的は毎年設定すべきですが、その中には必ずBCPを「定着させること」、「見直すこと」が求められます*。
定期訓練によって見直すことを目的としたら、誰がその見直しの担当者であるかを決めておきましょう。この担当者を決めておくことで、せっかく訓練で見つかった課題が放置されることを防ぎます。
担当者は定期訓練の前に、各自に抽出された課題の情報を連携する方法を伝えておくと、情報量ならびに質を確保することが出来ます。そして、連携させた課題は「運用」「システム」「ツール」など、見直すべき事項別に分類・整理をします。
見直しの優先度
課題はすべて見直すべきですが、複数課題がある場合には優先順位をつけ、重要なものから見直していきます。事業の継続に影響を及ぼす変更・変化でどのような事象にも共通に発生する事態の優先順位を高く、事業継続に影響を及ぼすものの、特定の事象に対してのみ発生する事態の優先順位を下げます。
対策実施運用体制
優先順位をつけられた課題には、それぞれ対策を講じます。訓練によって見つかった課題は『誰が』『いつまでに』『何を』するのかを決定して対策実行計画を作成・管理します。また、費用のかかる対策では概算コストも作成します。
実現した対策は、次回の定期訓練時に内容が十分であったかを検証します。そのため、対策実行計画はそのまま次回の定期訓練時のチェック項目となります。これらの検証を通してより実効性が高いBCPを作り上げます。
実現できるBCPへの改定
BCPと関連するマニュアル類は、実効性を高めるために詳細手順の記載書類が増えていく傾向にあります。その結果、分量が多くなりBCP発動時にやるべき事項にスピードが追いつかない場合や、やるべき事項ができない要因となります。
そのBCPと関連するマニュアルでは『何をするか』とその『流れ』の理解を重視し、出来るだけ簡素化できるようチェックリストやフローチャートなどを活用しましょう。
経営層のチェック
BCPの策定・見直しを行っていく中で、現場では分かりにくいものが事業環境の将来変化になります。この部分をカバーできるのは経営層です。事業環境やステークホルダーの期待の変化など、現在のBCPと将来あるべきBCPの方向性を定期的に経営層と話し合う必要があります。
また、この話し合いを通じてBCP策定と見直し、定着の活動が事業継続管理(BCM:Business Continuity Management)活動まで発展することで、さらなる経営層の関与ならびに支持を引き出し、BCP実現の上で課題となりやすい『現場の協力』『部署間調整』などの社内の消極的な関わり方を是正することができます。
まとめ
BCPの実効性を高めるために必要な定期的な見直しについて解説しました。BCPの難しさは、非常時を想定しているがために、刻々と変化する事業環境や運用を適時反映しにくい点だと理解いただけたかと思います。そのため、常に外的要因と内的要因の変更・変化に注目し、情報を収集する仕組みが必要になります。また、PDCAサイクルを回すことやBCPを定着させるためにも、目的を明確にした定期訓練とその後の対策の実行を実施するサイクルを作っておく必要があります。
その上で、BCP関連資料の簡素化や見やすさを意識した改編、経営層を通じての社内への浸透を図り、突然に発生する非常事態へ継続的に備えていくことが何より大切なのです。