災害の多い日本の中小企業にとって、今後有用性が増すだろうと考えられるのが中小企業強靭化法における「事業継続強化計画」の認定制度です。メリットがあるとなんとなく聞いているものの具体的なメリットや申請手順の把握が大変で、困っている企業も多いと思います。実際、公式資料などは字が敷き詰められており、決して分かりやすいとはいえず、欲しい情報が一箇所に集まっているわけでもありません。
そこで今回、中小企業にとってメリットの多い事業継続力強化計画の認定制度の情報をまとめて解説していきます。メリットを把握した上で認定を目指すかどうかを決定でき、申請手順も明確になるので、ぜひ参考にしてください。
認定を目指す理由となる3つのメリット
最初に事業継続強化計画の認定を得るメリット3つを紹介していきます。具体的なメリットは、以下のとおりです。
- 金融支援:低利融資や信用保証の別枠追加といった資金調達の支援
- 税制措置:防災・減災設備に対して20%の特別税制
- 予算支援:補助金(ものづくり補助金など)優先採択や加点
基本的には上記3つのメリットを活用して、災害の発生や感染症の流行といった非常時に、従業員の安全確保や経営の存続をできるようにしていくのが認定を受ける最大のメリットになります。
また、上記3つのメリットの他にも認定を受けていること自体が信用につながって、取引先の増加や受注の増加につなげられるといったメリットもあります。信用につなげるには、認定制度がつくられた背景を説明する必要があるので、認定制度の概要を解説していきましょう。
事業継続力強化計画の認定制度の概要
簡単に説明すると事業継続力強化計画の認定制度とは、自社が防災・減災への取り組みに力を入れていることを経済産業省に報告し、認定してもらえるとさまざまな支援を受けられる制度です。
認定制度がつくられた背景としては、2019年に施行された中小企業強靭化法があります。そもそも事業継続力強化計画の認定制度は、中小企業強靭化法の施策になります。
中小企業強靭化法は、大規模な自然災害といったサプライチェーンに影響をおよぼす災害が頻発するなか、個々の企業活動の継続が困難になることを防ぐために施行されました。
具体的な施策として、必要性は理解していても費用面などからなかなか導入できない防災設備の導入などを支援する認定制度があります。認定を受けている企業は、認定を受けていない企業に比べると廃業リスクが小さいと考えられるので、各種補助金の優先的な採択といった支援策が受けられます。
また、そもそもサプライチェーンに影響を出さないための認定制度なので、認定を受けている企業は事業継続力があると訴求することで、他企業からの信用を集めやすいといえます。受注数の増加といった平常時の経営にも良い影響があるでしょう。
というわけで、事業継続力強化計画の認定を受けると自社はもちろん多数の企業や業界にメリットがあります。支援を受けながら自社の存続に必要な措置ができるだけでも、大きなメリットだといえるので、ぜひとも取得したい認定です。そこで、認定取得の手順についても解説していきましょう。
認定取得の手順を5ステップで解説
事業継続強化計画の認定を受けるには、以下5つの手順を踏む必要があります。
- 適用対象者に該当するか確認
- 認定制度利用の検討
- 事業継続力強化計画(BCP)の策定
- 事業継続力強化計画の申請
- 計画の実行や税務申告など
各ステップの詳細を解説していきましょう。
ステップ①適用対象者に該当するか確認
まず、そもそも事業継続強化計画の認定制度の対象者に該当するかを確認しましょう。先に解説したとおり、認定制度は中小企業強靭化法に基づいており、法律名を見て分かるとおり大企業は対象外になります。具体的な適用対象者の条件は以下のとおりです。
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下の企業
- 資本または出資を有しない企業のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の企業
- 事業協同組合や協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、商店街復興組合
- 常時雇用している従業員数が1,000人以下の個人事業主
なお、上記の条件を満たしていても、以下の条件に該当する場合は対象外となります。
- 同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受けている場合
- 2つ以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受けている場合
- 前3事業年度の所得の平均が15億円を超えている場合
認定制度の対象者になる場合は、次のステップに進みましょう。
ステップ②認定制度利用の検討
認定制度を利用するかどうかを具体的に検討します。認定制度における金融支援や特別税制は事業継続力強化に関連のあるものが対象となり、自由に使える資金ではないため、利用価値がない場合は認定取得のコストだけがかかることになってしまいます。
たとえば、認定を受けられると日本政策金融公庫から低金利で融資を受けられますが、あくまで認定された事業継続力強化計画内の設備投資に対して使えます。特別税制も防災や減災に関連するものに限られます。
したがって、支援を受けながら自社の事業継続力を高められることや各種補助金が採択されやすくなったり、取引先を増やせたりすることなどを目的にして認定制度の利用を検討すべきでしょう。また、金融支援や税制を受けたい場合は、念のため事前に税務署などに要件などを確認しておくことをおすすめします。
認定制度の適用期間は2021年3月31日までのため、判断に困る場合はBCPコンサルタントなどにアドバイスをしてもらうと良いでしょう。
ステップ③事業継続力強化計画(BCP)の策定
提出する事業継続力強化計画を策定します。すでに事業継続計画(BCP)がある場合、対象となる可能性があるので確認してみてください。BCPの作成やBCMに取り組んでいない場合は、中小企業庁のホームページで無料ダウンロードできる「事業継続力強化計画策定の手引」が参考になります。
なお、事業継続力計画の区分は以下の2種類があります。
- 単独型:単独の企業で作成するもの(事業継続力強化計画)
- 連携型:複数の企業が連携して作成するもの(連携事業継続力強化計画)
自社以外と連携する場合でも、グループ企業などを含めて申請する場合は連携型を選び、自社以外がすべて認定制度に該当しない企業の場合は単独型を選ぶことになります。
BCPやBCM自体について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
ステップ④事業継続力強化計画の申請
事業継続計力強化計画が完成したら、最寄りの経済産業局などに提出します。各地域で提出先が異なるので、提出先の詳細を必ず中小企業庁のホームページで確認して下さい。なお、認定までにかかる時間は約45日とされています。
ステップ⑤計画の実行や税務申告など
無事に認定を取得できたら、事業継続力強化計画の実行や設備などの導入、税務申告を行いましょう。認定を受けたことを自社のホームページやお知らせなどで周知するのも重要です。
なお、税制優遇の税務申告をするときには、対象設備の償却限度額の計算明細書を添付しなければいけません。また、税務調査を受けることになった場合、認定通知書や事業継続力強化計画の写しなども必要になると考えられるので、きちんと保管しておきましょう。
事業継続力強化計画の認定制度で自社の存続を!
今回は事業継続強化計画の認定制度のメリットや概要、認定を受ける手順を解説しましたが、やるべきことは明確になったでしょうか?
事業の継続力は自社にとって重要なのはもちろん、自社が属している業界や日本全体のサプライチェーンにとっても重要です。そこで国が支援を用意しましたが、今後も支援策が用意されるかは分からないので、ぜひ今回の認定制度の活用を積極的に検討してください。
もっとも事業継続力強化計画作成するのは労力がかかり、専門性も問われます。事業継続計画(BCP)のコンサルタントといった専門家は、認定制度ができる前から存在しているのでアドバイスを受けるのことも視野に入れておいてください。